《ちょっと深堀り💡》シリーズ④-あなたの学ぶ、言葉の話-
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- 2021年12月8日
- 読了時間: 10分
みなさんこんにちは!
もう12月になってしまいました…。みなさんにとって、この2021年はどんな年でしたか?
さて、この記事の読者の中には、学生の方も多いかと思います。高校でも大学でも、分野に関わらずついて回るのが、英語の勉強です。定期テスト前や受験の前、こう思った方も多いのではないでしょうか。
なんで英語なんか勉強しなきゃいけないんだよ…。
今日はそんな英語を含む「言語」について、あなたの知識、考えを《ちょっと深堀り💡》していきます!!

【目次】
1.世界の言語
突然ですがここでクイズ。世界には、一体いくつの言語があると思いますか?数百?数千?
シンキングターイム…
正解は…7,139個でした!どこまでが方言で、どこからが別の言語、という区分が難しくいろいろな説があるのですが、世界にはおよそ6,000~7,000以上の言語があると言われています。世界人口が70億人であることを考えると、単純計算では700万人に1つ言語があることになります。700万人といえば、埼玉県の人口よりちょっと少ないくらい。そう考えると、思っていたよりも多いんじゃないでしょうか?この数字、後で出てくるのでちょっと覚えておいてください。
さらにもう一つ、日本の言語についてもお話しましょう。「え、いや、日本語一択でしょ」と思ったそこのあなた。そんなことはありません。少し上に書いてありますね、「どこまでが方言で、どこからが別の言語」と。そうです。私たちが普段「方言」だと思っているものも、実は別の言語だと考えられているのです。その代表格が「ウチナーグチ」ともいわれる沖縄の方言です。確かに日本語っぽいけれど、かなりその内容は異なり、全く知らない人が理解するのはかなり難しいのです。さらになんと、沖縄では島ごとに言葉が多少違うのですが、それぞれが全て別の言語だと考えられています。さらにさらに、2000km離れた北海道に目を向けてみれば、アイヌ語も立派なひとつの言語です。日本本土の方言もいくつかの言語に分けられるため、日本国内には合わせて20近くの言語があることになります。これはかなり驚きの事実ではないでしょうか。
2.英語話者の数
では次に海の向こうに目をやって、数ある世界の言語の中で一番人気なのはどれか見てみましょう。「英語は最も多く話者を持つ言語である。」こんなイメージを持っている方もいるかと思います。実はこの知識、半分は正解ですが半分は間違いです。下の図をご覧ください。
図1.母語話者と話者数それぞれ上位4つの言語

左側は母語話者の多い言語トップ4、右側は話者の多い言語トップ4です。濃い青が母語話者、薄い青がそれ以外の話者を表しています。登場してくる言語は両方とも同じ、Mandarin Chinese(中国語)、Spanish(スペイン語)、English(英語)、そしてHindi(ヒンディー語)ですが、その順番が違いますね。右側の図では、13億人を優に上回ってイメージどおり英語が1位、次いで中国語、ヒンディー語、スペイン語となっています。一方で左側、母語話者のランキングでは中国語が10億人を超えて1位、次いでスペイン語となっており、英語はなんと3位です。
母語とは、人が最初に学ぶ言語を意味し、一般的には親が話している言語のことを指します。例えば、日本人であればそのほとんどが日本語を母語としており、日本語の母語話者、と言えます。母語話者の人数は、その言葉を公用語としている国の人口にほぼ等しくなります。したがって、世界1位の人口を抱える中国の公用語、中国語が世界一の母語話者数を誇っているのです。
一方、薄い青で示されている部分は、その言語の母語話者ではないものの、日常的に(家や学校、職場で)その言語を使っている人を示しています。この記事の読者のほとんどは日本で生まれ、日本語を母語としている人たちでしょうから、私たちにとって英語は外国語です。そんな私たちが、外資系企業や国際機関に就職して、職場では英語を使うようになると、右側の図、Englishの薄い青の部分にカウントされるわけです。
改めて図を見てみると、母語話者とそうでない話者の人数の差が最も大きいのは英語であることがわかります。つまり、英語は母語に関わらず多くの人たちに話されているということなのです。
ここで、1.の中で覚えておいて、といった数字と比べてみて、なにか気づくことはありませんか?
…人数多すぎない?
先ほど単純計算したら、700万人に1つの言語でしたよね。しかし、上のグラフとともにお話しした通り、母語で考えても中国語だけで10億人以上、英語話者の合計だけでも13億人を優に上回ります。…計算が合いません。
3.絶滅危機言語のお話
計算が合わなかったところでさらに、皆さんに紹介したい事実があります。上の図からもわかりますが、ランキング上位の言語がかなりの人口を占めていました。ランキング上位23の言語の話者を足してみると、その合計は世界人口の半分にまでのぼるのです。
ということは、逆に言えばランキングがもっと下の言語の話者はそれだけ少ないということ。ここで出てくるのが、絶滅危機言語です。驚くべきことに、世界の言語のうちの40%、3,000以上もの言語が絶滅危機言語だとされています。
…そもそも、絶滅危機言語ってなんでしょう?なんとなく、絶滅の危機にある言語、というイメージは文字面から浮かぶと思います。ホッキョクグマみたいな…?

〈wwfジャパンより引用〉
間違ってはいません。この定義も諸説ありますが、一般的には
その言語の話者が、より支配的な言語を子どもに対して教えたり、使ったりするようになると、言語は絶滅の危機に瀕する
とされています。つまり新しくその言語を学ぶ、受け継ぐ人がいない言語ということですね。そんな言語が、言い換えればそれだけの人々が、自分たちの言語を使うことを辞めた、ということなのです。さらに言えば、言語の絶滅とは、その言語を話す人が1人もいなくなってしまうことを意味します。
だんだんその言語を話す地域の人口が減り、高齢化が進み、やがて最後の一人が息を引き取って、言語は絶滅する…。どこか悲劇的で、ある種ロマンティックな結末のように思えます。もちろん、こういったシナリオも往々にしてありますが、一方でそうではないケースもたくさんあるのです。どういうことか。
1.世界の言語でお話しした通り、日本国内にも20近くの言語があると考えられています。しかし、そういわれてもピンとこないのは、日本国民のほぼ全員が標準語を話しているからです。家や地元に帰れば方言が出るけど、学校や職場では標準語で話す、そんな生活をしている人も多いかと思います。家庭によっては、両親はともに別の方言を持っているけども、子どもに対しては標準語で接し、標準語を教える、ということもよくあることです。正に、「より支配的な言語を子どもに対して教えたり、使ったりする」という状況が起きています。これが世界では、子どもには自分の言語を教えずに英語を教える、といった形で起きています。英語話者が増えるわけです。
「でも、言語が減ったらその分、みんな同じ言語を話すようになるんだから、コミュニケーションはかどるじゃん、別によくない?」(東京都、10代男性)
たしかに、あくまでコミュニケーションの手段として、共通の言語があることは良いことかもしれません。遠い国の人と簡単に会話ができます。しかし、言語とは単なるコミュニケーション手段ではないのです。
ちょっと想像してみてください。あなたは学校の課題で、英語でエッセイを書くことになりました。テーマはあなたの趣味、野球観戦。どんなこと書こうかな…。
はい、ストップ。今頭の中で言葉が、日本語が浮かびませんでしたか?「どんなこと書こうかな」と。そう、私たち人間は、思考に必ず言語を使うんです。黙って考えていたって、頭の中では言葉が巡っているはずです。言語は単なるコミュニケーション手段ではない、人間の思考そのものなんです。
言語が1つになるということは、思考も画一化されることを意味します。しかし、そんなことはできません。アフリカはサハラ砂漠の、灼熱の暑さと渇きを日本語で表すには相当な語彙力、表現力をもってしても難しいでしょう。なぜなら、日本語が想定している世界にそんな暑さや渇きは無いからです。逆に、アフリカの砂漠の民の言葉で日本の四季を語ろうとしてもおそらく難しいと思います。それぞれの言語は、その言語が使われている世界のあらゆる物事を反映しています。言語が消滅するということは、その言語が、その言語の話者が紡いできた歴史、文化、価値観、そういったものが全て消滅してしまうということなのです。
4.絶滅危機言語を守る
言語の絶滅がいかに大きな意味を持つものか、おわかりいただけたでしょうか。では続いて、そんな絶滅から言語を守る取り組みを2つ、ご紹介します。
世界レベルで言語の保全に取り組んでいるのが、ハワイ大学がGoogle等と共同で運営しているこちらのプロジェクト。その名もずばり、Endangered Languages Projectです。
このサイトでは、誰もが世界の絶滅危機言語に関するあらゆる情報をアップロードすることができます。動画、音声、文字、文章、あるいは自身の体験などを記録に残すことで、言語を保全しようとしています。さらに、こういった資料を元にすれば、その言語を学ぶこともできます。保全だけでなく、新たな話者を育てることも可能にしようとしているのがこのプロジェクトです。
次は日本の例を紹介しましょう。こちらは、国立国語研究所の危機言語データベースというものです。
日本国内の絶滅危機言語の語彙や表現、さらにそれらの言語のナレーションがついた、文化を紹介する動画や、民話を語る音声が記録されています。日本にある危機言語をもっと身近に感じることができるので、ぜひ覗いてみてください!おすすめは、沖縄の島の言葉で語られる桃太郎です。ストーリーは同じなのですが、言葉が全く違います。
これらの他にも、国内外で様々な取り組みが行われています。気になった方はぜひ調べてみてください!
5.私たちにできること
ここまで、世界の言語の話、そして絶滅危機言語についてお話してきました。では翻って、私たちにできることはあるのでしょうか?
まず、地方にお住まいの、あるいはご家族の中に地方出身の方がいらっしゃる皆さん。ぜひ地域の方言について、聞いたり調べたりしてみてください。単に語尾が「~ちゃ」になる、とかそういう話も面白いですが、方言特有の語彙を調べてみると、地域の生活と深く結び付いていてとても面白いです。地域の郷土資料館に行ってみると、そういった資料や展示もあるかもしれません。
「そんなん言われても、両親も自分も東京なんすけど…。」(東京都、10代男性)
いやいや、実は大都会東京にだって、方言はあるんです。例えば、お出かけしている時、傘を持ってきていないのに雨が降ってきたら…「うわー、雨降ってきちゃった…」と言うことありますよね?この「ちゃった」(標準語では「てしまった」)は、東京方言だと言われています。あるいは、喧嘩の中で「そんなの、やだからね」というセリフが出てくるかもしれません。これも東京方言であって、標準語では「そんなこと、いやだからね」になります。どうです?普段、まったく意識せずに使っている言葉でしょう。
そして、もっと大きなスケールで言語保全の力になりたいんだ、というそこのあなた。先ほど紹介したEndagered Languages Projectのサイトで、全く知らない言語に触れてみるのも面白いですよ。
「そうは言ったって、大学じゃ英語が必修なんだし、英語やるしかないんだよぉ。」
(東京都、10代男性)
わかります。僕もそうです。そんなあなたにこそ、今一度言語を学ぶ意味、について考えていただきたいのです。冒頭の疑問に戻りましょう。
なぜ私たちは英語を、ひいては外国語を学ばなければならないのでしょうか?
世界の言語の数、英語話者の人数、絶滅危機言語の話…
言語学習について疑問を持ち、考えること。それが言語保全の第一歩です。この記事の中に、あるいはあなたの頭の中で、あなたなりの答えを探してみてください。
最後まで記事をご覧いただきありがとうございました。いいね♡やコメントなどをいただけると大変嬉しいです!「こんな記事読みたい!」「このテーマ扱って欲しい!」などのアイディアも大歓迎です。
では次回の記事もお楽しみに~
執筆者:FEST TOKYO 12期代表 関 響太郎
《引用・参考》
Ethnologue: https://www.ethnologue.com/
National Geographic: https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/20120627/314021/
久野マリ子, 2014,「首都圏方言の形成と共通語化」,『首都圏の言語の実態と動向に関する研究成果報告書 首都圏言語研究の視野』, 三井はるみ編, 国立国語研究所共同研究報告13-2,国立国語研究所, pp.19-38


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